一柳廣孝/久米依子編著『ライトノベル研究序説』――ここからが「研究」――

ライトノベル研究序説
一柳 廣孝 久米 依子
青弓社
売り上げランキング: 177864
おすすめ度の平均: 4.0
3 本論が出版されなければ価値はそれほど高くないと思う
5 いい意味でオタク

  • 満足度  ★★★★☆
  • ラノベ度 ★★★★☆
  • 研究度  ★★★★★

以前榎本秋『ライトノベル文学論』の紹介をしたときに、「これを文学論と呼ぶにはあまりにもライト過ぎる」と批判したので、その責任を取るためにも紹介させてもらわなければならない。こっちの方が「文学論」っぽい。
まずその守備範囲の広さから挙げなければなるまい。21人にも及ぶ論者が様々な視点から小論を寄せているというスタイルだが、その研究分野も「日本文学」を主軸としたものから、「社会学」「民俗学」「情報工学」といった多岐に渡っている。本書の目次を読むだけでも、まずは圧倒されることだろう。ひとつひとつの見出しまでは挙げないが、各論のタイトルには論点が明記してある。こちらは全て例示するが、「メディアミックス」「オタク文化」「マンガ」レーベル」「キャラクター」「萌え」「イラスト」「TRPG」「児童文学」「SF」「セカイ系と日常系」「美少女ゲーム」「ジェンダー」「社会学」「読者」「あとがき」「文学への越境」「情報工学ライトノベル」(一部コラム含む)といった多くの視野から「研究」がなされている。さらに「第4部」では「読む」と称され、ライトノベルから4作品(柴村仁我が家のお稲荷さま。』、神坂一スレイヤーズ』シリーズ、木原音瀬『無罪世界』ほか、野村美月文学少女』シリーズ)を挙げて、作品紹介とライトノベルならではの工夫(というべきか)を紹介している。
もちろん詳しいことは本書を読めばわかるし、本書を読んで欲しいわけだが、ライトノベルを単に一くくりにすることなく、様々な視点、分野からとらえようとする論は見事。ただ一つ一つの論はその分短めになっていて、もっと詳しく知りたい人には物足りない部分もあるだろうと思う。しかし、第4部の作品分析は見事である。特に「銀河鉄道の夜」と「文学少女」の比較検討は、日本文学を専門にしている論者にしか出来ないだろう。ライトノベルをある種外から見るという傾向は、本書全体に通底していることと思う(たとえば那須正幹の児童文学との比較なども見事)。というか、ライトノベルの本文を引用して紹介するというのは、入門書をそれほど何冊も読んでいない私にとっては珍しかった。実際に書き出しだけでも引用して読んでもらうのが「入門」にふさわしいはずなんだが、どうだろう。
いずれにせよ、やはりこれは「研究」の「序説」であり、全体としては濃いが一つ一つはやや薄く物足りない。この本の本当の価値は、「ライトノベルを題材にこれだけ出来る」という、研究の可能性を提示してみせたことだろう。そういう意味で本書は「序説」に過ぎない。本当の「研究」は、ここから始まるはずである。