織田作之助『六白金星・可能性の文学 他十一篇』岩波文庫

六白金星・可能性の文学 他十一篇 (岩波文庫)
織田 作之助
岩波書店
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とあるきっかけでこれを読む。織田作之助の作品自体の面白さもさることながら、佐藤秀明氏による解説が非常に面白かった。

「織田作」、といまでは人は親しみを籠めてそう呼ぶ。「織田」でも「作之助」でもなく「織田作」。もしかするとこの省略形は、ハンバーガー・チェーンを「マック」と言わずに「マクド」と言う関西的な感覚なのかもしれない。
佐藤秀明「《解説》可能性の「織田作」」)

織田作が大阪出身の作家であることを取り上げ、「織田作」≒「マクド」という図式にたどり着いた佐藤氏の着眼点がまずは見事。それ以上に、「可能性の文学」を小説とともに収録し、織田作の作品を「可能性」を描いたものとして再評価しようという目標は、ひとまずこの文庫一冊で達成されたことと思う。
不思議な魅力を感じさせる「道なき道」「髪」などの作品、「女の橋」「船場の娘」「大阪の女」の、いわば船場三部作が個人的には気に入った。「表彰」に関しては特別な思い入れがあるが、これに関しては割愛したい。いずれにせよどの作品も、なるほど人間の可能性に賭けたものであり、特に船場三部作の第三部、「大阪の女」の最後、《今はこの夢のほかに何を信じていいのだろうか、そうだ、自分はこの夢を信じようと、呟いた。》の一節はまさに「可能性」そのものといってもいい。表題作にもなっている「六白金星」は、楢雄という主人公の異常さがとにかく素晴らしい。結末部の素晴らしさは言うまでもない、これは是非本文を読んでみて欲しい。その他「競馬」の競馬シーンの迫力は鬼気迫る。
評論は「二流文楽論」「可能性の文学」が収録されている。「可能性の文学」が収録されている意図は先述の通りだろうが、「二流文楽論」は悪口のオンパレードで面白い。「可能性の文学」が坂田三吉の悪手のような新しい可能性を提示しようとするものだとすれば、「二流文楽論」はその「可能性」を閉ざしている、この国の二流の「文壇」への痛烈な批判。この国の文学が二流だとすれば、それを自分でまずは「人間」の「可能性」を書くことで変えてやろう、という意気込みが、二篇を通じて読むことで伝わってくる。編集と作品選択の妙を感じさせる一冊。