榎本秋「ライトノベル文学論」――「文学論」と呼ぶにはあまりに「ライト」――

ライトノベル文学論
ライトノベル文学論
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榎本 秋
エヌティティ出版
売り上げランキング: 206681
おすすめ度の平均: 3.0
3 ライトノベル書誌学の始め
3 いまひとつ

  • 満足度  ★★★☆☆
  • 文学論度 ★☆☆☆☆
  • ライト度 ★★★★★

こんなこと書くと「お前何様だよ」と思われそうだけど一つだけまず。これは「文学論」として期待すると結構痛い目に遭う、そういう本です。ただ、ライトノベル学(?)の入門としてはもってこい。実はあまりラノベを読んでませんが。だからこそ、「ライト」な情報を得てある程度満足することは出来たし、「文学論」としては物足りないと思ったわけです。
本書ではライトノベルの定義をまず「一九八〇年代末から九〇年代初頭に登場した角川スニーカー文庫富士見ファンタジア文庫以降の、中学生〜高校生でかつ男性という主なターゲットにとって読みやすく書かれた娯楽小説」であるとし、ライトノベルにとって重要な要素は「感情移入」と「憧れ」である、と明記しております。なるほどこれは全くその通りだと感心させられました。現実世界(我々が生きているこの世界)では味わえない、たとえば剣と魔法、たとえば世界を賭けた戦い、たとえばそれに付随する恋愛といった「物語」を読むためにライトノベルがあるわけで。そこで「一九八〇年代末〜」といった定義と、データベース的なラノベの紹介はかなり役に立つのではないかと。
ただ、全く満足できなかったのは第二章の「十六のキーワード」なるもの。ラノベを16に分類し、それぞれの代表作を紹介していくわけです。列挙しておきますと、「ファンタジー(剣と魔法)」「現代ファンタジー学園異能)」「ミステリー」「SF」「非ファンタジー型現代もの」「ロボットもの」「セカイ系」「架空歴史もの」「歴史もの」「スポーツもの」「恋愛もの」「コメディ/ギャグ」「ダークなライトノベル」「学園もの」「性的表現」「作家の個性」というのが十六分類。続いてそれぞれに六つの「イメージや特徴」についての「評価」をしています。「キャッチーなキャラクター」「読者が受け入れやすい世界観」「読者に感情移入させる仕掛け」「読みやすい文章」「娯楽小説としてのストーリー・テーマ」「ライトノベルとの親和性」を、各10点満点。この点数のつけ方もかなり恣意的。しかし、「ロボットもの」が「ライトノベルとの親和性」が低いとか、そういう点は納得できる範囲です。
第二章ではこの十六分類にしたがってライトノベルの代表作品を紹介していくわけですが、これがいただけない。たとえば「非ファンタジー型現代もの」の欄に『とらドラ!』が出てくるだろうことを予測して読んでいたら出てこない。あれ、と思って読み進めてみれば、「恋愛もの」に『とらドラ!』が入っておりました。さらに読んでいくと、『フルメタル・パニック!』は「ロボットもの」、『鋼殻のレギオス』は「学園もの」に入っており、やや?とならざるを得ませんでした。この点、いやいやフルメタは学園要素も強い、とか、レギオスはバトル系なんだからファンタジーでは、という意見も出そうなものです。
むしろ、そういったジャンルを超越する力がライトノベルの魅力なのではないかと。この辺りは著者も了解済みで、《ただ、注意してほしいのは、代表的な作品として名前を挙げたからといって「その要素しかない」作品とは思ってほしくない、ということだ。ライトノベルは、先に挙げたような基本要素に、複合的な様々な要素(ファンタジー+恋愛とか、SF+ミステリーとか)が結びついて成立するのが普通なのである。》と述べてあります。しかし、先にそのような了解と但し書きをしておきながら、十六分類を単純にやってしまったのがまずかったのではないかと。十六分類にしたがって作品を分類するよりは、年代別あるいはレーベル別に作品を紹介し、この作品は十六分類の○○+△△+□□の要素を足して出来ている、とした方がわかりやすいのでは。まぁ、十六のキーワードに「作家の個性」なる謎のキーワードがあるのがまずいといえばまずい。「個性を押し出して根強いファンを獲得」とのことですが、これは他のいわゆる「ジャンル」的なキーワードと並べるべきではなかったのではないでしょうか。
「市場規模」や「周辺事情」といった辺りは納得の内容(やや物足りない部分もありましたが)ですが、肝心のライトノベルについて述べた部分が足りなかったかと。作品をズラズラ列挙していくよりは、一つの作品に思い切って踏み込んでいく姿勢もほしかったところではあります。
いずれにせよ、「文学論」というには相当ライトな内容で、ガイドブック的なものでした。その方が普段あまりラノベを読まない私などには相応しいのかもしれませんが、ラノベを読み込んでいる「ヘビー」な「ライト」ノベル読者にはあまりオススメできません。ただ、ラノベの歴史について知りたい人なんかにはやっぱりオススメです。著者のライトノベルの知識・読書量に圧倒されますし、いくつか読んでみたい作品も出てきましたし。しかし、「ライトノベル」で「文学論」をしようと思うと、「ライト」な内容にならざるを得ないのか、と若干皮肉めいたことまで思ってしまいました。

おまけ、参考リンク

ライトノベルを色々読んでみたいと思っても、続刊(巻)モノが多く手を出しにくいのが現状。人気ある作品はシリーズ化されるので仕方ないといえば仕方ないわけですが、調べてみれば単巻の良い作品もあるそうで。自分のためにもリンク。
単巻、もしくは前後巻程度でまとまっているラノベ・改 - REVの雑記 - LightNovel Group
http://blog.ajin.jp/2009/09/21/amazon-lightnovel-booksellers
LoopAndReplayFictions - grevグループ
スレイヤーズ 1 (富士見ファンタジア文庫)スレイヤーズ 1 (富士見ファンタジア文庫)