CLANNAD最終話「影二つ」と全体の総括

Aパートは学園祭デート+秋生さんの高校時代の演劇ビデオ、Bパートは舞台本番。
以下原作との比較を若干用いますが、原作へのネタバレは極力避けたつもりではあります。

風子・ことみルート(シナリオ)の後で描かれた渚ルート、あるいは風子・ことみルートを内包した渚ルート

Aパートで、暗い「影」を落としたまま学園祭デートを続ける二人が、それぞれ一人ぼっちになる場面がありましたね。そこで渚はゆきねぇを介して高校時代の秋生さん(のビデオ)と、朋也は早苗さんと出会い、そして古河パンの隣に住んでいる磯貝さんが早苗さんを迎えに来ます。ここで伊吹風子の影(新・アニメ・批評さんのエントリ参照)についての問題がふと浮かび上がってきました。風子が古川家に居座るために、「伊吹」であることを隠すために用いた偽名が、古河パンの隣の改札にあった「磯貝」であったことを覚えている視聴者は少ないかもしれません。しかしここでの「磯貝さん」の登場は、原作には無かったはずです。アニメ独自のモノとして、ここでもまた風子の影が出てきていると思われます。
ここで少しアニメ版CLANNADの全体像のようなものを語りたいと思います。原作プレイヤーにはもう御承知のことと思われますが、風子・ことみルートは原作の中でもズバ抜けて完成度の高い(泣ける)シナリオでありますし、石原監督もそこを強調していたはずです。

―笑いが必要という話でしたが、作品自体は人間ドラマが物語の根幹にあると思います。物語を描く際、一番重要視している部分はどこでしょうか?
石原:自分が原作で泣けたところを外さなければ、アニメも同じことが伝えられるだろうと思っています。ただ、それをアニメに入れ込むのに多少工夫は必要だとも感じています。
(石原監督インタビュー:http://anime.webnt.jp/nt-news/20071010_clannad/

杏・椋・智代はヒロイン間の戦争で淘汰されました。これについては「どうしてもその三人のシナリオは恋愛を絡めないと成立しないから」という言説もありますが、一応石原監督が「泣けた」から風子・ことみルートをアニメに入れたことにしておきましょう。そして問題なのは、アニメ版CLANNADにおいて、渚ルートが風子・ことみルートを通過した後に配置されていること、つまり「風子・ことみ→渚」という順番であり、あるいは風子・ことみルートが渚ルートの中に含まれてしまっている、という言い方も出来ますね。朋也・風子・渚の三人で疑似家族のように一晩を過ごすシーンや、ことみの家の庭掃除を渚が夜遅くまで手伝うシーン、あるいはことみが気がつけば演劇部に入ってしまっていた、そういう状況を思い出してみてください。これらは全て、朋也と渚を結びつけるため(朋也に渚を下の名前で呼ぶよう提案したのは風子ですし)、あるいはその「場」である演劇部を成功させるためのものだったわけです。平たく言うと、演劇(渚ルート)の「前座」として、風子・ことみルートは通過されていったわけです。だから朋也と風子・ことみは恋愛関係に至らず、渚シナリオのみがそれを通過した上で「恋愛エンド」として収束していったわけです。「リセットしない」アニメ版の時間軸において、それが最良の選択であったかもしれないということは明言しておきましょう。

秋生さんとオイディプス王

オイディプス王』という作品をみなさんはご存知でしょうか。文庫版の翻訳も大量にございますが、この作品は「家族を存続させる」ための「父殺し」という物語の「起源」であり、精神分析家のフロイトが確立した「エディプスコンプレックス」という「家族主義」の「起源」でもあります。そしてそれは、『アンチ・オイディプス』(ドゥルーズガタリ)や『性の歴史』(フーコー)、『精神分析の抵抗』(デリダ)などの現代フランス哲学の著作が解体しようとした「家族というもの」の「起源」に位置する作品なのでございます。
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あまり文学・神話その他に関する見識はありませんが、あれは確かにオイディプス王ですね。確か『オイディプス王』は王であった父を殺して王の座につき、実の母と結ばれるも、やがてその真実を知ってしまうという悲劇でしたね。
「王であった父を殺して王の座につく」ということは、「役者だった父親の夢を犠牲にして舞台に立つ」という渚の状況(渚がそう思い込んでいる状況)と重なります。母親(早苗さん)についての言及は出来ませんが、恐らく渚の心情と重なるものとして、スタッフが『オイディプス王』を父親である秋生さんに演じさせたのでしょう。誰かに詳しく解説してもらいたいところではありますが。

感想

さて、何か上に長々と書いてきましたが(というほど長くもないし中身もないですが)、今回は非常にいい話でしたね。一旦幕を降ろすか降ろすまいかと迷う朋也、体育館の入口から叫ぶ秋生さん、席から叫ぶ早苗さん、階段を駆け下りて叫ぶ朋也と、演劇が始まるまでのプロセスが見事でした。また、演劇が途中から幻想世界編にすり替わってしまうという手腕も見事。何と言うか、一視聴者としてはやっぱり面白いアニメに大して「面白い」というしかないわけで、本当は延々と面白い感想を書きたいんですが、実際は「「面白い」という感想」しか書けませんね。
さて、とりあえず今週が最終回、来週は番外編。何かが起きそうな予感が漂っていて、正直ワクワクしております。